白衣とメガネと懐中時計
「ああそうだ、別れたよ、康太とは」
付き合ったという報告はしてたけど、別れたとは言ってなかった。
資料室に運ぼうと文献を手に取ると、そのうち、数冊を翔平に奪われた。どうやら、一緒に運んでくれるらしい。
無言のまま、暗い廊下を二人で歩く。
翔平は何か思案しているかのように、黙ったままだ。
聞こえなかったのかな?あたしの話。
彼のほうを向くと、整った横顔が思ったよりも近くにあった。
高校生の頃から、こいつは顔が良くて。
おまけに大学では学科から一人だけ選ばれる特待生になれるほど、頭が良くて。
高校、大学と所属していたバスケ部ではいつもスタメンで。
そんな彼はモテた。
告白されてフリーなら、大体付き合っていた翔平。
だけど、すぐに告白してきた女のほうが愛想を尽かして、フラレていた。
翔平を振った女の子の愚痴を聞いたことがある。
デートのとき、絶対食べるものも、飲むものも彼が決める。
待つのが嫌いで、化粧直しの時間もくれない。
こっちはヒールなのに、歩くときの歩幅は気にしてくれない。
苦笑した。
確かに言われてみれば、友達としてあたしが彼と居るときもそんなところがある。
自分勝手で俺様で強引なところ。
でもあまり気にしたことなかった。
あたしはヒールも履かなければ、メイクもしないから。
それに、強引に食べ物や飲み物を頼まれても、そこに決して、あたしの嫌いなものは入っていないから。