白衣とメガネと懐中時計


「なぁ、別れた理由、聞いてもいいか?」

資料室の扉を開けたとき、ようやく彼が口を開いた。

文献を指定の位置に戻しながらあたしも口を開く。

「あたしがね。結婚しても仕事を続けたいって言ったから」

「それが相手の奴は気に食わず、別れたってことか?心の狭い男だな」

「まぁ、そう。だって仕事辞めてしまったら、再就職なんて難しいじゃん。離婚した時、どうすんのよ」

そう言うと、プッと翔平が噴き出した。

「お前、結婚する前に離婚の話してたのかよ。そりゃ、相手も興ざめだな」

「だって、事実でしょ?男の人は離婚しても、仕事先あるのに、専業主婦に道はほとんどないのよ?」

それに誰も仕事を続けるから、家事はやらないとか言ってるわけじゃない。
手伝ってほしいとも思ってない。

それなのに、今どき仕事辞めて、家庭に専念してくれなんて言う亭主関白はこっちから願い下げだ。

だから別れようという彼の言葉に速攻で頷いた。

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