白衣とメガネと懐中時計
「ねぇ、もし自分の恋人が結婚しても仕事続けたいって言ったら、翔平ならどう言う?」
「楽しんでやってる仕事なら、続けてほしいって言うな。お金とか離婚後のこととかなしに、頑張る人って格好いいから」
自慢だろ?格好いい奥さん持つのって。
そう言って、ニカッと歯を見せて笑った翔平に、あたしは満足する。
康太と別れた時、おんなじ亭主関白でも翔平ならきっとそんなこと言わないと直感的に思ったことは正しかったのだ。
文献の最後の一冊をしまって、さあ帰ろうと、資料室の扉を目指す。
そろそろ帰らないと終電が近い。
警備員さんも来ちゃう。
そのときだった。
「……っ……!?」
頑丈な腕があたしを抱きすくめた。
そんなことをする奴は、今は一人しかいない。
「翔平!?」
痛いほど強く
後ろから抱きつかれて。
固まるあたしの耳に、
彼は掠れた声を落とす。
「茉咲。お前、俺の女になれ」