ごきげんよう!豪腕丸!
第1章 推参!豪腕丸!
01
耳を劈く重苦しい鐘の音が辺り一帯に響き渡る。
チャイムだ。
この鐘がなったということはつまり、豪腕丸は既に遅刻しているのである。
しかし、豪腕丸は焦らない。
顔色一つとせず変えず涼やかな表情で校門をくぐる。
強きものはどんな場面であっても決して焦りはしないのだ。
冷静沈着。
これぞ侍魂である。
しかし、そんな豪腕丸の歩みを止める輩が一人。
「お待ちなさい」
低い重低音のような声が背後から投げかけられる。
「あなた、新入生ね?…ふーん中々いい身体してるじゃない。でも、その髪型は芋っぽくていただけないわね」
長い金髪の間から覗く強面、身長は約2mと豪腕丸と比べれば1mも劣るが、鍛え上げ膨張した筋肉は豪腕丸にも負けず劣らずといったところだ。
筋肉について違いを挙げるとするならば、金髪の女子の筋肉は豪腕丸の筋肉よりも品があり、煌びやかであるということだ。
豪腕丸の筋肉は例えるなら、野生。
所々に生々しい傷跡が残り、その荒々しさを感じ取れる。
一方金髪女子の筋肉は、真っ白な肌には傷など一つもなく、均等に鍛え上げられ輝きを放っている。例えるならそう、彫刻。一級芸術品のような筋肉。
「新入生。あなた初日から遅刻するとは何様のつもりかしら」
前髪をかきあげ、豪腕丸に対して黒い笑みを向ける。
身長だけ見れば豪腕丸のほうが遥かに大きい。
だがしかし、金髪女子は豪腕丸を見下していた。
精神的に見下していたのだ。
だが豪腕丸はそのような侮蔑行為ごときは意にも介さず、炎の宿った目を金髪女子に向けるとゆっくりと口を開いた。
「貴様も、遅刻しているではないか」
金髪女子は一瞬顔を曇らせたが、すぐに得意げな表情になり、こう告げた。
「なるほど、あなた私を知らないのね。
この力学園四天王が一角、早乙女麗亜のことを」
早乙女は続ける
「私はこの学園の理事長の娘。つまり姫。私はこの力学園という名の城の姫なのよ!」
してやったり、という笑みを浮かべる早乙女。だが。
「それがどうした?貴様も我と同じ遅刻者ということに変わりはない」
早乙女麗亜は目を見開き呆然とした。
この学園のものであれば、いや学園のものでなくても、目の前の人間が早乙女財閥の者と知れば、地面に頭をめりこませる勢いで地にひれ伏すはずであるからだ。その理由はまた後に語るとするが、簡潔に言えば、今のこの荒んだ世界の王は早乙女財閥のトップ、早乙女源五郎であるからなのだ。
その王の娘に対してひれ伏さぬどころか毅然とした態度で向かってくる豪腕丸。
早乙女麗亜の中で、彼女への死刑執行が決まった。
豪腕丸は瞬時に早乙女麗亜の放つ敵意と殺意に勘づく。
「殺るか?やめておけ。貴様では我を倒すことはできぬ。」
理由を教えよう、と、豪腕丸は続ける。
「貴様の筋肉は美しい。だが、その筋肉は魅せるための筋肉。戦うことのみに特化した我の筋肉の前では無力である。」
例えるならば、豪華客船と戦艦が戦うようなものだ、と付け加えた。
「例えが下手ね。典型的な脳筋。だけどそう、その通り。わたしの筋肉は所詮見せかけ。ボディビルの大会で優勝することはできてもプロレスで優勝することはできないわ。でも忘れちゃった?私はこの猛者たちが集まる力学園の四天王の一人なのよ?たしかに私は理事長の娘。
でもね、私の四天王としての実力は…」
早乙女麗亜はゆっくと腕を動かし、所定の位置へ持っていく。
ポージングだ。
ボディビルなどで筋肉をより強く、美しく見るための術だ。
早乙女麗亜のとったポージングは、僧帽筋や胸、腕の筋肉などを強調させるもの。
そう、モストマスキュラーだ。
その時、早乙女麗亜の白く美しい筋肉がプラチナの如く光り輝く!
するとどうだろう、その光に吸い寄せられるようにして学園から生徒たちが集まり始めた!
強靭な筋肉を持った女子生徒たち、しかし皆目は虚ろである!
生徒たちは光に集まる蛾のように早乙女麗亜を囲む。
「あなたの言う通り、私の筋肉は魅せる筋肉!この美しき筋肉に魅せられたものは、意識を失い私の操り人形と化すのよ!これが、これが私が四天王である所以!真の強者とは、自らは力をふるわず人を操り戦うのよ!己の手は決して汚さないの!」
早乙女麗亜、四天王、二つ名は「プラチナクイーン」!
「さぁお行きなさい私の従順なる手下たちよ!あの筋肉ダルマの首を手刀で切り落とすのよ!」
豪腕丸に襲いかかる生徒たち、普通に考えればこの状況は絶体絶命!
だがどうだろう?豪腕丸は先ほどと変わらず澄ました表情のままだ。
そう、豪腕丸にとってこの状況は絶体絶命でもなんでもないのだ。
むしろ、絶体絶命的状況下におかれているのは、早乙女麗亜の方なのだ!
「貴様の敗因は」
豪腕丸がゆっくりと構えの姿勢をとった直後、豪腕丸に襲いかかった生徒は肉塊となっていた。
目にも留まらぬ速さで拳を繰り出したのだ。
目にも留まらぬ速さで拳を繰り出せるということは、目にも留まらぬ速さで移動もできる。
早乙女麗亜がまばたきのために目を閉じ、次に見開いた時、豪腕丸は早乙女麗亜の目の前で拳を握りしめていた。
「我が相手であったことだ」
繰り出された拳は早乙女麗亜の顎に直撃。
早乙女麗亜の首はまるでワインのコルクを開いた時のようにシュポンと気持ちのいい音を出し、遥か上空へと飛ばされた。
首は大気圏に突入し燃え尽き、光となった。
頭を無くした早乙女麗亜の首の根元からは噴水のように血が吹き出、白い肌を赤に染める。
その光景をすかさずスマートフォンを使い写真に収める豪腕丸!
なにをするのか!
愚問!
インスタである!
豪腕丸は倒した相手の亡骸をかかさずインスタにアップしている。
そうすることによって自らの実績を他に知らしめ、さらに強い敵が己に挑んでくるのを待っているのだ!
アップされた写真には一瞬で大量の「いいね!」がつく。
紹介しよう。
彼女の名は豪腕丸。
15歳。
好きな食べ物はパンケーキと鮮魚。
飽くなき向上心を持ち、最強にならんと強者を求めてsnsに写真をアップする…
インスタの女王である!!!!
戦いを終え、肉塊を踏みしめながら校舎へと向かう豪腕丸。
しかし、その歩みをまたしても背後からの声が止める。
「こんにちは」
豪腕丸が振り返った時、そこにいたのは先ほどの早乙女麗亜とは全くもって正反対に位置する人間であった。
スラリとした体格、恐らく体重は60キロ前後しかないであろう。
身長は180センチほどとかなり低い。
パーマがかかった短めの茶髪。
顔は整っているが、不恰好な眼鏡をしているためかその魅力は半減している。
美人、ではない。そう、イケメン。
彼は男であった。
「初めまして、僕は…丸ノ内ヤマト。」
先ほどまで全く動かなかった豪腕丸の表情筋が伸ばされ、驚いたように目を見開く豪腕丸。
平静を保っていた心臓はバクバクと音を立て始める。
「突然で悪いけし…気持ち悪いかと思うかもしれないけど…」
「僕は君に、恋をしてしまったようだ」
男は豪腕丸に恋をした。
また、豪腕丸も男に恋をしていた。
一目惚れである。
運命の男と女が出会った瞬間であった。
01
耳を劈く重苦しい鐘の音が辺り一帯に響き渡る。
チャイムだ。
この鐘がなったということはつまり、豪腕丸は既に遅刻しているのである。
しかし、豪腕丸は焦らない。
顔色一つとせず変えず涼やかな表情で校門をくぐる。
強きものはどんな場面であっても決して焦りはしないのだ。
冷静沈着。
これぞ侍魂である。
しかし、そんな豪腕丸の歩みを止める輩が一人。
「お待ちなさい」
低い重低音のような声が背後から投げかけられる。
「あなた、新入生ね?…ふーん中々いい身体してるじゃない。でも、その髪型は芋っぽくていただけないわね」
長い金髪の間から覗く強面、身長は約2mと豪腕丸と比べれば1mも劣るが、鍛え上げ膨張した筋肉は豪腕丸にも負けず劣らずといったところだ。
筋肉について違いを挙げるとするならば、金髪の女子の筋肉は豪腕丸の筋肉よりも品があり、煌びやかであるということだ。
豪腕丸の筋肉は例えるなら、野生。
所々に生々しい傷跡が残り、その荒々しさを感じ取れる。
一方金髪女子の筋肉は、真っ白な肌には傷など一つもなく、均等に鍛え上げられ輝きを放っている。例えるならそう、彫刻。一級芸術品のような筋肉。
「新入生。あなた初日から遅刻するとは何様のつもりかしら」
前髪をかきあげ、豪腕丸に対して黒い笑みを向ける。
身長だけ見れば豪腕丸のほうが遥かに大きい。
だがしかし、金髪女子は豪腕丸を見下していた。
精神的に見下していたのだ。
だが豪腕丸はそのような侮蔑行為ごときは意にも介さず、炎の宿った目を金髪女子に向けるとゆっくりと口を開いた。
「貴様も、遅刻しているではないか」
金髪女子は一瞬顔を曇らせたが、すぐに得意げな表情になり、こう告げた。
「なるほど、あなた私を知らないのね。
この力学園四天王が一角、早乙女麗亜のことを」
早乙女は続ける
「私はこの学園の理事長の娘。つまり姫。私はこの力学園という名の城の姫なのよ!」
してやったり、という笑みを浮かべる早乙女。だが。
「それがどうした?貴様も我と同じ遅刻者ということに変わりはない」
早乙女麗亜は目を見開き呆然とした。
この学園のものであれば、いや学園のものでなくても、目の前の人間が早乙女財閥の者と知れば、地面に頭をめりこませる勢いで地にひれ伏すはずであるからだ。その理由はまた後に語るとするが、簡潔に言えば、今のこの荒んだ世界の王は早乙女財閥のトップ、早乙女源五郎であるからなのだ。
その王の娘に対してひれ伏さぬどころか毅然とした態度で向かってくる豪腕丸。
早乙女麗亜の中で、彼女への死刑執行が決まった。
豪腕丸は瞬時に早乙女麗亜の放つ敵意と殺意に勘づく。
「殺るか?やめておけ。貴様では我を倒すことはできぬ。」
理由を教えよう、と、豪腕丸は続ける。
「貴様の筋肉は美しい。だが、その筋肉は魅せるための筋肉。戦うことのみに特化した我の筋肉の前では無力である。」
例えるならば、豪華客船と戦艦が戦うようなものだ、と付け加えた。
「例えが下手ね。典型的な脳筋。だけどそう、その通り。わたしの筋肉は所詮見せかけ。ボディビルの大会で優勝することはできてもプロレスで優勝することはできないわ。でも忘れちゃった?私はこの猛者たちが集まる力学園の四天王の一人なのよ?たしかに私は理事長の娘。
でもね、私の四天王としての実力は…」
早乙女麗亜はゆっくと腕を動かし、所定の位置へ持っていく。
ポージングだ。
ボディビルなどで筋肉をより強く、美しく見るための術だ。
早乙女麗亜のとったポージングは、僧帽筋や胸、腕の筋肉などを強調させるもの。
そう、モストマスキュラーだ。
その時、早乙女麗亜の白く美しい筋肉がプラチナの如く光り輝く!
するとどうだろう、その光に吸い寄せられるようにして学園から生徒たちが集まり始めた!
強靭な筋肉を持った女子生徒たち、しかし皆目は虚ろである!
生徒たちは光に集まる蛾のように早乙女麗亜を囲む。
「あなたの言う通り、私の筋肉は魅せる筋肉!この美しき筋肉に魅せられたものは、意識を失い私の操り人形と化すのよ!これが、これが私が四天王である所以!真の強者とは、自らは力をふるわず人を操り戦うのよ!己の手は決して汚さないの!」
早乙女麗亜、四天王、二つ名は「プラチナクイーン」!
「さぁお行きなさい私の従順なる手下たちよ!あの筋肉ダルマの首を手刀で切り落とすのよ!」
豪腕丸に襲いかかる生徒たち、普通に考えればこの状況は絶体絶命!
だがどうだろう?豪腕丸は先ほどと変わらず澄ました表情のままだ。
そう、豪腕丸にとってこの状況は絶体絶命でもなんでもないのだ。
むしろ、絶体絶命的状況下におかれているのは、早乙女麗亜の方なのだ!
「貴様の敗因は」
豪腕丸がゆっくりと構えの姿勢をとった直後、豪腕丸に襲いかかった生徒は肉塊となっていた。
目にも留まらぬ速さで拳を繰り出したのだ。
目にも留まらぬ速さで拳を繰り出せるということは、目にも留まらぬ速さで移動もできる。
早乙女麗亜がまばたきのために目を閉じ、次に見開いた時、豪腕丸は早乙女麗亜の目の前で拳を握りしめていた。
「我が相手であったことだ」
繰り出された拳は早乙女麗亜の顎に直撃。
早乙女麗亜の首はまるでワインのコルクを開いた時のようにシュポンと気持ちのいい音を出し、遥か上空へと飛ばされた。
首は大気圏に突入し燃え尽き、光となった。
頭を無くした早乙女麗亜の首の根元からは噴水のように血が吹き出、白い肌を赤に染める。
その光景をすかさずスマートフォンを使い写真に収める豪腕丸!
なにをするのか!
愚問!
インスタである!
豪腕丸は倒した相手の亡骸をかかさずインスタにアップしている。
そうすることによって自らの実績を他に知らしめ、さらに強い敵が己に挑んでくるのを待っているのだ!
アップされた写真には一瞬で大量の「いいね!」がつく。
紹介しよう。
彼女の名は豪腕丸。
15歳。
好きな食べ物はパンケーキと鮮魚。
飽くなき向上心を持ち、最強にならんと強者を求めてsnsに写真をアップする…
インスタの女王である!!!!
戦いを終え、肉塊を踏みしめながら校舎へと向かう豪腕丸。
しかし、その歩みをまたしても背後からの声が止める。
「こんにちは」
豪腕丸が振り返った時、そこにいたのは先ほどの早乙女麗亜とは全くもって正反対に位置する人間であった。
スラリとした体格、恐らく体重は60キロ前後しかないであろう。
身長は180センチほどとかなり低い。
パーマがかかった短めの茶髪。
顔は整っているが、不恰好な眼鏡をしているためかその魅力は半減している。
美人、ではない。そう、イケメン。
彼は男であった。
「初めまして、僕は…丸ノ内ヤマト。」
先ほどまで全く動かなかった豪腕丸の表情筋が伸ばされ、驚いたように目を見開く豪腕丸。
平静を保っていた心臓はバクバクと音を立て始める。
「突然で悪いけし…気持ち悪いかと思うかもしれないけど…」
「僕は君に、恋をしてしまったようだ」
男は豪腕丸に恋をした。
また、豪腕丸も男に恋をしていた。
一目惚れである。
運命の男と女が出会った瞬間であった。