君は世界を旅してる
prologue.

「アンタ、秘密は守れる方?」


ありえない。
たった今目の前で起きたことを信じられずに、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

広野真子(こうのまこ)、18歳、高校3年生の秋。
友達とお弁当を食べ終えて、トイレに行くと嘘をついて立ち入り禁止の屋上に忍び込んだ昼休み。
そこには先客がいたのだった。

いや、違う。
私がここに着いたとき、ここには確かに私1人だった。私の他には誰もいなかった。
現れたのだ。突然、目の前に。


「あ、い、いいい今」

「誰にも言うなよ」

「待って、ちょっと待って頭の中整理するから……!」


———

ついさっき、私は1人でこの屋上に来た。
もちろん立ち入り禁止なので他に来る人は誰もいないし、いつも鍵がかけられている。
私も普段から立ち入るわけではなくて、なんとなく1人になりたいときに気まぐれに使わせてもらっている。
誰にもばれないように、屋上の入り口へと続く階段を上るときは見られていないか細心の注意を払って。
軽く折り曲げたヘアピンを鍵穴に突っ込んで、ドアノブを右に回しながら少し持ち上げるようにすると、ガチャッと音がして鍵が開く。そのことに気付いたのはもう半年ほど前だった。これは、仲の良い友達にも言っていない。

今日も同じように無理矢理鍵を開けて、屋上への扉を開いた。
天気が良くて風が気持ちよくて、スカートがめくれるのを気にもせずに大の字に寝転んだ。
広がる空は見事に青くて、自分はなんてちっぽけなんだろうなんて、なんとも受験生らしいことを考えながら寝返りを打ったときだった。

突然、顔の前に足が現れたのだ。

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