君は世界を旅してる
1.
お母さんが家を出て行ったのは、3ヶ月前のことだった。
その日の朝、私はいつも通りいってきますと告げて学校へと向かった。
今になって思えば、朝食がいつもより豪華だったかもしれない。
学校から帰って来たら、お母さんがいなかった。買い物にでも行ってるのかと思ってリビングのテーブルの上を何気なく見やった。そしたら、不自然に真っ白な封筒がそこにぽつんと置かれていて。
妙な胸騒ぎがしたのを今でも鮮明に覚えている。
ゆっくりと封筒を手にとって裏返すと、お母さんの字で”真子へ”と書いてあった。
慌てて家の中を走り回ってみると、クローゼットの中にぽっかりとスペースが空いていた。そこには、お母さんの服やカバンが置いてあったはずだった。
もしもの時のためにと教えてもらっていた貴重品入れからは、お母さんの印鑑や通帳が消え去っていた。
代わりに、私名義の通帳と、私の名前が書かれた母子手帳がそこにおさまっていた。
残されていたのは白い封筒。その中の手紙を読んで絶望した。
頭の中がズブズブと真っ黒に塗り潰されていくようで、ただただ絶望した。
次に、怒りが込み上げてきた。
足元からどんどん上へと這い上がってきて身体中が怒りで支配されていって、手紙を持つ手がワナワナと震えた。
そしたらその怒りが、今度は目からぼたぼたと零れ落ちて、手紙を濡らした。
文字が滲んでしまわないように慌てて手紙をテーブルの上に置くと、フローリングがパタパタと小さな小さな音を立て始めて、やがてほんの少しの水溜りが出来た。
女手一つで育ててくれたお母さんとは、とても仲良くやれていると思っていた。