君は世界を旅してる
そして放課後、先生に職員室まで連れていかれることになった。
このままでは早川くんを待たせてしまうことになる。
「じゃあ真子、私は帰るからね。せいぜい頑張って~」
「あ、待って千尋!ちょっとお願いがあるんだけど……」
「ん?」
帰る寸前に千尋を捕まえることに成功した私は、ジュース1本と引き換えに伝言をお願いすることにした。
幸い、先生の手伝いというのはそれほど大変ではなかった。
みんなが帰って行った1組の教室に1人残って、プリントを重ねてホッチキスでとめる作業をひたすら繰り返す。
本当だったら今頃、早川くんと向き合っていたのかな。
グラウンドからは運動部の元気のいい声が聞こえてくる。
いつもは40人近くが授業を受ける教室にたった1人で座っているのは、不思議な感じがする。
普段は気にも留めない掲示板の張り紙や、黒板にくっついてるマグネットが目についた。
「……さむ」
夕方になると、開いた窓から舞い込んでくる風が冷たい。
カーディガンの袖をぎりぎりまで伸ばして、迷った末に窓を閉めることにした。
「手伝おうか」
「!」
かけられた声に驚いて振り返ると、教室の入り口のところに早川くんが立っていた。
私が返事をする前に中に入ってきた早川くんは、私の隣の机まで歩いてくる。
「今日は部活休みなんだよ」
知ってる。
島崎さんが教えてくれたから。
「……青木さんが言いにきてくれたよ。”今日行けないって伝えてほしい”って言われたってね」
「うん、ごめんね。先生の手伝いしなきゃいけなくなって……」
「そうみたいだね。僕も手伝うよ」
向かい合うように机に座った早川くんは、プリントを手に取って揃え始めた。