君は世界を旅してる
「手紙、やっぱり真子ちゃんだったんだね。名前書いてなかったから」
「うん、早川くんの真似してみた」
「だと思った」
いつも通りの、にこにこした顔。それを見ていると、自然と肩の力が抜けていった。
早川くんがプリントを揃えて、私がそれをホッチキスでとめていく。
このペースだと、1人でやるよりずっと早く終わりそうだ。
「真子ちゃんって、先生に怒られたりしないタイプだと思ってた」
「い、いつもはそんなに怒られないよ!今日はたまたま、ちょっと考え事してて……」
そこまで言って、はっと留まった。
早川くんが私の顔を見ていたから。
「何を考えてたの?」
「え、それ、は……」
「僕のこと?それとも……、一条のこと?」
どうして、一条くんの名前を早川くんが出すんだろう。
順調に進んでいた手が、思わず止まる。
居心地が悪くなって、咄嗟に早川くんから目を逸らした。
空気が緊張してるような気がする。
さっき窓を閉めてしまったことを、少し後悔した。
「手、止まってるよ」
「あ、ごめん」
もう、さっさと終わらせてしまおう。
考えるのはその後だ。
それからは2人共ほとんど口を開くことなく、ただひたすら目の前の作業に没頭した。