君は世界を旅してる
「正直に答えてくれる?」
早川くんは笑っていた。
私は、同じように笑えない。
口に出そうとしたら、想いが溢れて声にならない。
目の奥が熱くなって、こらえるように強くまばたきをした。
「真子ちゃん」
「………す、き」
そう言うと、早川くんは視線を天井に向けた。
今までずっと保ってた笑顔が崩れて、くちびるを噛んでいるように見える。
「そっかあ」
そうつぶやいた声は、こんなに近くにいても聞こえにくいほど小さな声だった。
そして立ち上がって、教卓のほうへと歩いて行く。
その背中を見ながら、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。
「あーあ。あいつだけには負けたくなかったなあ」
さっきとは違って大きな声でそう言った後、こっちを振り返った早川くんは悔しそうな顔をしてた。
あいつって、一条くんのことだろうか。
一体2人の間には、なにがあるんだろう。
「ごめんね真子ちゃん。本当のこというと、最初は本気じゃなかったんだ」
そんなことを言われても、ちっとも嫌な気分にはならなかった。
心のどこかでそうじゃないかと思ってたからだ。
「ずっと1人で過ごしてた一条が、唯一気を許してる女の子に興味があった。それで、あいつから取ってやろうかと思ったんだ」
「え……」
「本当に、ごめん」
ゆっくりと、頭を下げられた。
そんな理由だとは思ってなかったから驚いたけど、早川くんを責める気はさらさらない。