君は世界を旅してる
「あのね、早川くんのことは、断ったの」
「え……」
「告白されたけど付き合えないって」
それがどうしたんだ、って冷たく返されるのが怖くて、一条くんの顔を見れない。
廊下を歩く自分の上履きに視線を落とした。
「………」
「だ、だから、早川くんと付き合ってるなんて言わないでほしいなー、なんて」
言い訳するようにそう言ってみて、余計に恥ずかしくなってきた。
なにか言ってほしい。思い切って一条くんの顔を見る。
「…そっか」
ボソッとそう呟いた一条くんは、私の顔をじっと見ていた。
何を考えてるかわからない表情で私を見てる一条くんが、次の瞬間ふっと笑った。
「…!」
「…そっか。あいつ人気あるのにもったいない」
少し目を細めて、いつもより幼い顔で笑う一条くんに、胸が高鳴った。
こんなに楽しそうな笑顔は初めて見たかもしれない。何がそんなに面白いんだろう?
「一条くん、なにか嬉しいの?」
「は!?何言って…」
一条くんはぎょっとしたような顔をして、それから少し考え込むような仕草を見せた。
どうしたのかと思って見ていると、一条くんがもう一度笑ってみせた。
「そーだな、嬉しい」
「……そうなの?」
「あーもううるさい。早く行くぞ」
そう言って足早に図書室を目指す背中を、慌てて追いかける。
その背中に向けて無意識に伸ばしかけた自分の手を、触れる直前に引っ込めた。