君は世界を旅してる

「あのね、早川くんのことは、断ったの」

「え……」

「告白されたけど付き合えないって」

それがどうしたんだ、って冷たく返されるのが怖くて、一条くんの顔を見れない。
廊下を歩く自分の上履きに視線を落とした。

「………」

「だ、だから、早川くんと付き合ってるなんて言わないでほしいなー、なんて」

言い訳するようにそう言ってみて、余計に恥ずかしくなってきた。
なにか言ってほしい。思い切って一条くんの顔を見る。

「…そっか」

ボソッとそう呟いた一条くんは、私の顔をじっと見ていた。

何を考えてるかわからない表情で私を見てる一条くんが、次の瞬間ふっと笑った。

「…!」

「…そっか。あいつ人気あるのにもったいない」

少し目を細めて、いつもより幼い顔で笑う一条くんに、胸が高鳴った。
こんなに楽しそうな笑顔は初めて見たかもしれない。何がそんなに面白いんだろう?

「一条くん、なにか嬉しいの?」

「は!?何言って…」

一条くんはぎょっとしたような顔をして、それから少し考え込むような仕草を見せた。
どうしたのかと思って見ていると、一条くんがもう一度笑ってみせた。

「そーだな、嬉しい」

「……そうなの?」

「あーもううるさい。早く行くぞ」

そう言って足早に図書室を目指す背中を、慌てて追いかける。

その背中に向けて無意識に伸ばしかけた自分の手を、触れる直前に引っ込めた。

< 121 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop