君は世界を旅してる

思ったとおり、図書室はガラガラだった。

カウンターに座ってる図書委員の子が、私達を不思議そうに見ていた。
普段図書室に来ない人が来ると、珍しいのだろう。

奥のテーブルに向かい合うように座った。
近くには誰も座っていない。

「で?なんの用事だったんだ」

そう聞かれたのを合図に、カバンの中をゴソゴソと探る。そして、一条くんの前に差し出した。

「昨日おばあちゃんの家に行ったの。で、お母さんが残してたアルバムの中から、これを見つけたんだけど。見て」

「写真?」

一条くんがそれを手に取った。
その写真には、寄り添うように立つ男女が写っている。

「これ、広野の母さんか?」

「そう。似てるでしょ?」

「似てる」

一条くんが、写真をじっくり眺める。その様子を、ドキドキしながらじっと待つ。

昨日この写真を見つけたとき、ついに掴んだと思った。

写真には、お母さんともう1人、男の人が写っている。

お母さんと同じくらいの年齢のその人は、お母さんと本のやりとりをしたあの男の人だろう。
その証拠に、写真の中のお母さんは、紺色の表紙に金色で文字が書かれた、分厚い本を左手に持っている。

お母さんのお腹は、大きかった。

「ここ、広野がいるんだな」

「うん、そうだと思う。不思議な感じだよね」

次に一条くんは、男の人を指差した。

「この人、4月5日に行ったときに本渡してた人だよな。かなり若い頃だけど、面影がある」

「私もそう思う。お母さんが持ってるのもあの本だしね」

一条くんは小さく頷いて、それから口元に手を当てた。
一条くんがこのポーズをしたときは、何かの推理をしてるときだ。

「……この写真、男の人が広野の母さんに本を渡したときに撮ったのかもしれない」

「え?それって、プロポーズしたときってこと?」

驚いて、もう一度写真を覗き込んだ。


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