君は世界を旅してる
「一条くん?」
「ヒントはある。広野の母さんと男の人が待ち合わせをしてたのは昼過ぎだった。男の人は、仕事が終わったところだと言ってた。そんな時間に終わることがある仕事だってことだろ?」
「え?そうだった……?」
「それと、もうひとつのヒントは、ドイツ語だ」
「ドイツ語…?ま、待って一条くん。どういうこと?」
「病院だ」
ハッキリとそう言い切った一条くんが、勢いよく立ち上がった。
その勢いのまま椅子にかけていたブレザーを羽織って、カバンを背負う。
訳がわからない私も、つられるようにして立ち上がる。
図書室を飛び出した一条くんに続いて廊下を進む。
「待って一条くん!どこに行くの!?」
「白衣とドイツ語、それと夜勤があること。これから予想出来る職業はなんだ?」
「え?えーっと……」
「それから広野の母さんが、もし病気の再発を隠してたとしたら。それで、今その2人が一緒にいるんだとしたら。……どこだ?」
足を止めることなく歩く一条くんが、一瞬だけ振り向いた。
推測だけど適当じゃない、自信を持って話してる。そういう顔をしていた。
「………病院?………医者!?」
「それだ。最新の医療を学ぶためにドイツに留学する人がいるって聞いたことある。あの本はドイツ語だ。まったくわからない人がわざわざ読むような本じゃない」