君は世界を旅してる
下足場について、靴を履き替える。
理屈はわかるけど、私の脳みそでは上手く処理が出来ない。
今はただ、迷いのない一条くんについて行くことだけを考えよう。
「あの4月5日のカフェ。わざわざ広野の家から離れたカフェで待ち合わせしたのは、仕事を終えてから来る相手に合わせたからだと思う」
「……ということは?」
「ということは、あそこらへんの大きい病院にいけば、当たるかもしれない」
「なるほど……。でも、どうして大きい病院だってわかるの?」
2人一緒に外に出る。
雨はまだ降り続いているけど、傘を差すか迷う程度の小雨だった。
2人とも傘を持って来てないので、多少濡れるのも気にせずに並んで歩く。
ふと、こっちを見た一条くんが、緊張したような顔をした。
「いいか広野。俺がここまで予想したことが全部完璧に当たってると仮定する」
「う、うん」
「なんで広野の母さんは、病気のことを隠して広野の前から姿を消したんだろう。わざわざ置いて行かれたんだと勘違いさせて、なんで”酷い母親”みたいな真似したんだろう」
確かにその通りだ。
もし本当に病気が再発して、入院しないといけないなら。
あんな手紙だけを残して、どうして本当のことを言ってくれなかったんだろうか。
「……まさか」
「ああ。本当のことを言ったほうが、悲しませると思ったのかもしれない。それぐらい、一刻を争う状況なのかもしれない」
どこか他人事のように、一条くんの言葉を聞いた。
深く考えようとしても、脳がそれを拒否してるように思考がまとまらない。
「広野」
差し出された手を、ぎゅっと握り返して歩き出した。
顔に当たる雨粒が冷たい。
一条くんの手は温かかった。