君は世界を旅してる
「広野美佳子という人はこの病院に入院してますか?」
病院の受付でそう尋ねてみる。
受付のお姉さんは目をパチクリさせて、その後申し訳なさそうにこう言った。
「ごめんなさい。個人情報なので教えることは出来ないのよ」
「え……」
一条くんと顔を見合わせる。
教えてもらえない可能性をすっかり失念していた。
「お願いです!なんとかなりませんか?」
「駄目よ。あなた達だけ特別に許可するなんて出来ないわ」
「そんな……」
せっかくここまで来たのに。
もしかしたら、あと少しの距離にいるかもしれないのに。
いないならいないで、私達の推理は間違っていたんだと諦めもつく。
だけど結局わからないなんて、自分の中でけじめがつかない。
どうしよう。
困り果ててる私とは反対に、一条くんは至って冷静だった。
病院のフロアをキョロキョロと見渡して、何かを探してるようだ。
「あ、いた。広野」
「なに?」
一条くんが、エレベーターの前あたりを指差した。
その先を見ると、車椅子に乗った患者さんと話す白衣姿の人がいた。
「あの人……」
「例の男の人、だよな?」
ビンゴだ。
そう一条くんが呟いた。
間違いない。やっぱりあの人は医者だった。
考えるより先に、足が動いていた。
「おい!」
一条くんが呼び止める声が聞こえたけど振り返らずに、男の人に近付いていく。
エレベーターが到着したようで、車椅子の人が乗り込んで見えなくなった。男の人は、乗らずにその場に留まっている。
チャンスだ。
「あの!すいません!」
「……ん?」
私の声が届いた。