君は世界を旅してる
「あの、広野美佳子という人は、この病院に入院していますか?」
「君は………」
「広野真子といいます」
「!」
男の人は、とても驚いていた。
それから私の顔をまじまじと眺めて、くしゃっと顔を歪めた。
「よく、似ている……」
「え、」
「来なさい。こっちだ」
ついて行くように促される。
きっとお母さんがいるんだ。そこに案内してくれるんだ。
後ろにいる一条くんを手招きすると、一条くんは首を横に振った。
そして、手を振りながらバイバイと口を動かした。
”1人で行ってこい”と、背中を押してくれてるんだ。
こくんと頷いてみせて、男の人の背中を追いかけた。
「私の名前は楠木(くすのき)だ。好きに呼んでくれてかまわない」
「楠木、さん」
一条くんよりも大きな背中だ。
背も高くて、白衣がすごくかっこいい。
首には聴診器を引っ掛けていて、胸ポケットにはボールペンが2本挿してある。
本当に、この人が、私の……?
まだわからない。聞いてみないとわからない。
だけどきっと、間違いない。
そう思ったら、今すぐにでもすべてを聞き出したくなった。
全部問い詰めて、私がスッキリするまで何もかもを話してほしくなった。
でも今は、お母さんの無事を確かめるほうが先だ。
階段を上がって、病室が並ぶフロアを歩く。その1番奥で、楠木さんは足を止めた。
「この病室だ」
扉の横には、お母さんの名前が書かれた札がある。
1人分しか名前がないので、個室のようだ。
「会いたいか?」
「……会いたい!」
楠木さんが、扉を開けた。
ガチャッと、重苦しい音がした。