君は世界を旅してる
「じゃあ広野の母さんは、4月5日にあのカフェで手術を受ける覚悟を決めて、手紙を書いたのか」
病院からの帰り道、一条くんと話しながらゆっくり歩く。
もうすっかり暗くなった空は、雨も上がって綺麗な星が出ていた。
「きっとそうだと思う。4月5日は、私の誕生日でもあるけど、お父さんとお母さんがまた一緒に過ごすことを決意した日でもあったんだね」
「病院の中で、だけどな」
2人にとってそれは、どれだけの覚悟を持った決断だったんだろう。
だってお母さんが助かる可能性はとても低かったのだ。
もし自分なら、その可能性に賭けることが出来るだろうか。
「それで、これからどうするんだ?」
一条くんが心配そうに、控えめに尋ねてくる。
聞いていいのかわからないけど気になる。きっとそんな感じだ。
「うん。お父さんとは、多分一緒には暮らさない。そんなことしたら、私だけずるいってお母さんが怒るでしょ?」
お父さんも、突然私が目の前に現れて、まだ戸惑ってると思うし。
血は繋がってるけど、家族と呼ぶにはまだまだの関係だから。
これから少しずつ、距離を縮めていけるように努力するって、お父さんと話した。
「でもこれだけは決まってるよ。私もお父さんも、お母さんが目を覚ますのをずっと待ってるんだ」
「……うん。そうだな」
一条くんは優しく笑いかけてくれた。
よく頑張ったなって言ってくれてるのが、仕草から伝わってくる。
一条くんには本当に、感謝してもしきれないくらいだ。