君は世界を旅してる
8.
「あの2人、前みたいに一緒にいないよね。別れたのかな?」
周りからそんな風に言われてるらしい。
千尋が教えてくれた。
そもそも付き合ってもなかったんだけどね、と心の中で返しておく。
お父さんとお母さんのことが解決して、何週間か過ぎた。
まだまだお母さんは目を覚ましそうにないけれど、お父さんとはたまに連絡を取り合ったり、お母さんのお見舞いに行ったときに話したりしてる。
とりあえず一命は取り留めたのだから、すぐに目を覚まさなくても慌てることはないからって、お父さんは私を安心させようとしてくれてる。
その優しさが伝わるので、あまり心配をかけたくなくて暗い顔をしないようにする。
一条くんとは、学校で会えば会話をする。
昨日病院に行ったんだとか、テストの点が悪かったとか、そんな当たり障りのない話をなんとなくする。
だけどそれは、あくまで偶然すれ違ったからちょっと話してるだけだった。
前みたいに、屋上で待ち合わせたり、お昼を食べたりすることは無くなってしまった。
だって、誘う理由がないから。
本当に、お互いの秘密だけで繋がってた不安定な関係だったんだと、こうなって改めて思い知らされた。