君は世界を旅してる
「はいじゃあ終礼おわり。明日も遅刻すんなよー」
さよならー。
そう言ってすぐ、カバンをかかえて教室を飛び出した。
千尋が驚いた声を出してたけど、なんて返事したか自分でもあまり覚えてない。
はやる気持ちを抑えて、階段を駆け上がる。
もうすぐで着くところまで来て、念のため誰にも見られてないことを確認してから最後の階段を上がった。
息があがる。
扉の前に立って、深呼吸。
さっき4組の前を通ったらもう生徒達が帰ってたから、1組よりも早く終礼が終わったみたいだった。
ということは、先に着いてるだろう。
ドアノブを回すと、鍵は開いていた。
ギイ…と古い音を立てながら扉がゆっくり開く。
その先に、もう何度も見た後ろ姿があった。
大きな音を立てている心臓に思わず手を当てた。
冷たいはずの風が顔に当たってとても気持ちよかった。自分の頬が熱を持ってるからだと気付いた。
2人での屋上は、1人のときとは全然違う。
空気も、においも、空の色も。
少しずつ、目の前の背中に近付いていく。
「……一条くん」
振り返った拍子に、サラサラの黒髪が風に揺れた。
「……おう」
一条くんの顔も、少し緊張してるように見える。
隣まで歩いて、2人並んで手すりを掴んだ。
「カフェオレ、ありがとう」
「……おう」
いつも以上に口数が少ない一条くんに、何を話しかけようか迷う。
そもそも呼び出したのは一条くんなのに、どうしたんだろう?