君は世界を旅してる
「あ、そうだ。最近の一条くん、ちょっと楽しそうだよね?」
「は?」
なにが?と一条くんが首を傾げる。
私は廊下で見た一条くんの姿を思い出す。
「クラスの人達とよく喋るようになってるでしょ?」
「……あー」
一条くんはバツが悪そうな顔で首の後ろに手を当てた。
眉間にしわをよせて、どう返そうか考え込んでるようだった。
「あれは、早川が」
「え?早川くん?」
そういえば早川くんは、冷たくされても一条くんに話しかけていた。
中学のときの話を早川くんから聞いたとき、一条くんのことを気に入らないということを言っていた。
だけどそれはショックだったからで、実は一条くんのことを心配してるように見えた。
本当に嫌いなら、話しかけることすらしないんじゃないかなって思うし。
「早川が無理やり、巻き込んでくるっていうか話さざるをえない状況を作ってくるっていうか……」
「あはは、なにそれ」
「しるか」
きっと、いつまでそうしてんだって言いたいんだ。
早く戻ってこいって、早川くんからのメッセージなんだ。
正反対の2人だけど、なんだかんだいいコンビなのかも。
くすくす笑う私につられたのか、一条くんも少し表情が緩んだ。
上を見上げると、空が少しずつオレンジに染まりつつある。
数秒ごとに色を変える空と雲が、2人の緊張を解いてくれるみたいだ。