君は世界を旅してる

「そういえば、」

一条くんが控えめに口を開いた。
少し小さめの声だったので、一文字も聞き逃したくなくて必死に耳を傾けた。

「広野と初めて話したのも、ここだったな」

「え……」

急にどうしたんだろう。
今日私を呼び出したことと関係のある話なのかな。

秋真っ最中のあの日、1人になりたくなってやって来たこの屋上で、一条くんが過去から戻ってくるところに出くわした。
今考えたら本当に奇跡のようなことで、あの日私が屋上に来ようと思ったのも、何かに吸い寄せられたんじゃないかと思うほどだ。

「……一条くんあのとき、過去に行ってたんだよね」

「ああ。誰もいないだろうと思って屋上使ってたら広野に見られたからな」

「あのときも、この前も……。一条くん、過去へ何をしに行ってたの?」

「!」

あ、聞いたらいけないことだったかもしれない。
一瞬で強張った一条くんの表情が、私にそう感じさせた。

言いたくないことだってあると思う。
もともと、友達さえいらないって言うような人だ。
踏み込み過ぎたらいけない。

「ごめん、やっぱり今の質問なしに、」

「……中学の頃に行ってた」

「……え」

咄嗟に話をやめようと発した私の言葉を遮るように、低い声が聞こえた。

「……アンタになら話してもいい。誰にも話したことないんだ」

「話して、くれるの?」

こくんと頷いた一条くんが、ひとつ深呼吸をした。
聞いたことのない一条くんの過去。彼はゆっくりと話し始めた。

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