君は世界を旅してる
「俺が自分の能力に気付いたのは、中学生のときだった。忘れもしないあの日、親が大喧嘩してたんだ」
ひとつひとつ思い出すように、一条くんは目を閉じた。
「父さんが浮気してるって言って、母さんは泣きながら怒ってた。父さんは浮気なんてしてないって、怒鳴り散らして。俺はそんな2人を見慣れてたから、ソファーに座ってテレビ見てたんだ」
「見慣れてた、って」
「そしたら母さんが俺にしがみついてきた。澪はどっちの味方なのって言われて、何も言えなかった」
浮気したかどうかの喧嘩が頻繁に起こる家の中で、中学生だった一条くんはどんな気持ちでいたのかな。
見慣れてしまうほど、それはきっと日常的な出来事だったんだろう。
「そのとき、いっそのこと過去にでも行けたら事実を確認して解決出来るのに、って思ったんだ。そしたら……」
「まさか、行っちゃったの?」
「俺にしがみついてた母さんも一緒に、気が付いたら父さんの浮気現場に立ってた」
唖然とした。
そんなことが現実に起こるなんて、誰が想像出来ただろう。
私に協力してくれて、過去に連れていってくれた一条くん。そのおかげで私はすごく救われたのに。
そんな彼が初めて過去に行った場所が、父親の浮気現場だなんて。
しかもそれを、母親と一緒に見てしまったのだ。
「何が起こったのかわからなかった。母さんは隣で呆然としてるし、父さんは目の前で知らない女の人と楽しそうに喋ってるんだ。元に戻してくれって思ったら、また家に帰ってきた。今度は現実の父さんが目の前で目を丸くしてた」