君は世界を旅してる

「過去に行ったなんて事実は信じられなかったけど、結果として父さんの浮気をこの目で証明してしまったんだ。で、親は離婚」

「そんな……」

何て言ったらいいのかわからなかった。
一条くんは、手すりに背中を預けてもたれかかった。

「いっつも喧嘩してたのに、ギリギリのところで踏みとどまってたんだ。母さんは離婚だけはしたくなかったらしい。それを俺が壊した。俺のせいで離婚せざるを得なくなった」

「一条くんのせいだなんて…!それは違うんじゃ、」

「母さんは俺を憎んだ。たぶん今でも恨んでる。……それから、気味悪がってるんだ」

一条くんは下を向いてしまった。
両親が離婚したのは自分のせいだと思い詰めて、自分をずっと責めてきたんだろう。

「…気味悪がってる?」

「俺に過去を暴かれるのが怖いんだと思う。…つーか普通、人に自分の過去を自由に覗かれたら嫌だろ。だから俺は母さんと今でも必要最低限の会話しかしないし、出来るだけ顔を合わせないようにしてる」

前からなんとなく、一条くんが家の話をするときに感じていた違和感は、これが原因だったんだ。

「一条くんはそんな、むやみに人の過去を覗くようなことしないよ!」

「考えてみろよ、俺の顔見るたび怯えて、気持ち悪いものを見るような目を向けてくる。……実の息子に。だから俺はその日から人と関わるのをやめた。仲が良ければ良いほど、母さんみたいな態度をとられると嫌になるから」

それは、一条くんが1人で過ごすようになった理由だった。
中学生のときにある日突然だった、と早川くんは言ってたけど、私達が思っていたよりずっと悲しい事情があったんだ。


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