君は世界を旅してる
少し汚れた上履き、制服の黒いズボン。指の先がかろうじて見える袖の長い紺色のカーディガン。
ひとつひとつ辿るように、目線を上へと移していく。色の白い首、目にかかった黒くてサラサラの前髪。それと同じ色の瞳と目が合った瞬間、これは同じ学年の男の子だと唐突に理解した。
「あ」
「っ!?」
しばらくの間、無言で見つめあう私と、色白の少年。
思わず体を起こして口を開けた私を、正反対とも言える冷静な顔で見つめる少年。
見覚えがあった。
3年間、1度も同じクラスになったことがなくて話したことがない人でも、廊下ですれ違ったり友達の教室に行ったりで、意外と顔は知っているものだ。
あまり目立つとは言えないこの男の子の名前は、たしか、えーと………。
なんだっけ。
「アンタ、秘密は守れる方?」
―――
「………終わった?」
静かな声でそう聞いてきた男の子は、とても冷たい目をしていた。
どちらかというと小柄な体型な彼の大人びた雰囲気は、どこか不釣り合いに思えた。
「あの、ごめんよくわからない」
「……もしかして、見てなかった?」
「何もない空間にいきなり現れたってことしか」
見てんじゃんってボソッと呟いた男の子は、思いっきり溜息をついて私を見た。
蛇に睨まれたような気分になって、びくっと肩がこわばってしまった。きっととても情けない顔をしてるだろう。
「アンタ、放課後の予定は」
「……へ」
「無いなら、またここに集合。いいか、絶対誰にも言うなよ」
そう言い残して、男の子は私に背を向けた。
屋上を出ていく最後の最後まで、その背中から目が離せなかった。
1人になった瞬間、体中から力が抜けて再び大の字になって寝転がった。勢いがよすぎたのか、少しだけ背中が痛い。