君は世界を旅してる
木の陰に隠れてじーっと様子をうかがう。
「だから、俺達見えてないから。隠れたって意味ないから」
「あっそうだった」
呆れた顔をした一条くんにえへへと笑いかけて、そろそろと席に近付いていく。
何かあったらすぐわかるように、近くで待機してみることにした。
「何してるんだろう……」
「ま、ちょっと待ってみるしかないな」
……それから、30分近くが経過した。
お母さんは相変わらず1人きりで座っている。
私はというと、だんだん不安になってきていた。
「……もしかして、ただカフェでコーヒー飲みながら本読みにきただけなのかな…」
もしそうなら、とんだ無駄足だったことになる。一条くんまで巻き込んで、何をしてるんだろう。
情けなくなった。
「ごめん一条くん、やっぱり私の考えすぎだったのかも」
「待て、まだだ。もう少し待つ」
「え……」
一条くんは無表情のままそう言って、決してそこから動こうとはしなかった。
どうしてだろう。もう30分もこの状態なのだ。ここからさらに待ち続けてもし何も起こらなかったらと思うと、申し訳なさすぎる。
「でも」
「見ろ。30分前から本はどんどん読み進めてる。それなのにコーヒーは全然減ってない」
「…いわれてみれば」
さっきから全然コーヒーには手をつけていなかった。
ほぼ頼んだときのまま、満タンの状態だ。
「だけど、本に夢中になって忘れてるだけって可能性もあるよ?」
「確かにな。だけど逆に考えたら、あえて飲まずにおいてるって可能性もあるだろ?」
「どうしてそんなこと」
「たとえば」
そのとき、それまで本に視線を落としていたお母さんがふいに顔を上げた。
「誰かを待ってるとか」