君は世界を旅してる

木の陰に隠れてじーっと様子をうかがう。

「だから、俺達見えてないから。隠れたって意味ないから」

「あっそうだった」

呆れた顔をした一条くんにえへへと笑いかけて、そろそろと席に近付いていく。
何かあったらすぐわかるように、近くで待機してみることにした。

「何してるんだろう……」

「ま、ちょっと待ってみるしかないな」


……それから、30分近くが経過した。
お母さんは相変わらず1人きりで座っている。
私はというと、だんだん不安になってきていた。

「……もしかして、ただカフェでコーヒー飲みながら本読みにきただけなのかな…」

もしそうなら、とんだ無駄足だったことになる。一条くんまで巻き込んで、何をしてるんだろう。
情けなくなった。

「ごめん一条くん、やっぱり私の考えすぎだったのかも」

「待て、まだだ。もう少し待つ」

「え……」

一条くんは無表情のままそう言って、決してそこから動こうとはしなかった。
どうしてだろう。もう30分もこの状態なのだ。ここからさらに待ち続けてもし何も起こらなかったらと思うと、申し訳なさすぎる。

「でも」

「見ろ。30分前から本はどんどん読み進めてる。それなのにコーヒーは全然減ってない」

「…いわれてみれば」

さっきから全然コーヒーには手をつけていなかった。
ほぼ頼んだときのまま、満タンの状態だ。

「だけど、本に夢中になって忘れてるだけって可能性もあるよ?」

「確かにな。だけど逆に考えたら、あえて飲まずにおいてるって可能性もあるだろ?」

「どうしてそんなこと」

「たとえば」

そのとき、それまで本に視線を落としていたお母さんがふいに顔を上げた。

「誰かを待ってるとか」

< 22 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop