君は世界を旅してる
「これからどうなるかはわからない。だが、美佳子のために全力を尽くすよ。約束する」
「ふふっ、ありがとう。こんなに力強い味方はないわね」
「今、いくつだったか」
「真子?今日で18歳になったわ。もう高3よ?信じられない」
そう言ってお母さんはコーヒーに手を伸ばした。
つられるようにして、男の人もカップを手に取った。
2人の間に流れる空気はとても穏やかなものに感じられた。とても、私が入っていい場面じゃないと、そう思った。
「これを、返そうと思っていたんだ」
そう言った男の人は、カバンの中を漁りだした。そして取り出したのは、一冊の分厚い本だった。
その本を見て目を見開いた。
隣にいる一条くんの腕を咄嗟につかんで揺すぶった。
「あ、あれ!」
「知ってるのか?」
「見覚えがある」
深い青色のカバーに包まれた、重厚な本だ。
表紙には、金色の文字が書かれている。一目みたら覚えてしまうような、少し変わった本だ。
それを渡されたお母さんは、とても驚いた顔で本の表紙を眺めた。
「…こんなもの、まだ持ってたの?」
「大事なものだからな」
優しい手つきで何度も表紙を撫でている。
その手つきと表情だけで、どれほど大切なものかが伝わってくるようだった。
「色々準備もあるだろう。時間がかかってもいい。待ってるぞ」
「ええ、ありがとう」
それから15分ほど世間話をしていた2人は、「そろそろ帰らないと」と男の人が言ったのをきっかけに帰っていった。
その間ずっと、笑いあっていた。
私が見たことないような笑顔だった。
すぐに動くことが出来ずに誰もいなくなったテーブルをただただ見つめた。
こっちの世界でも時間は流れている。他のテーブルに座る人が、さっきとは変わっていた。
「広野さん」
「………」
「広野。そろそろ戻るぞ」
「あ、うん」