君は世界を旅してる

「これからどうなるかはわからない。だが、美佳子のために全力を尽くすよ。約束する」

「ふふっ、ありがとう。こんなに力強い味方はないわね」

「今、いくつだったか」

「真子?今日で18歳になったわ。もう高3よ?信じられない」

そう言ってお母さんはコーヒーに手を伸ばした。
つられるようにして、男の人もカップを手に取った。
2人の間に流れる空気はとても穏やかなものに感じられた。とても、私が入っていい場面じゃないと、そう思った。

「これを、返そうと思っていたんだ」

そう言った男の人は、カバンの中を漁りだした。そして取り出したのは、一冊の分厚い本だった。
その本を見て目を見開いた。
隣にいる一条くんの腕を咄嗟につかんで揺すぶった。

「あ、あれ!」

「知ってるのか?」

「見覚えがある」

深い青色のカバーに包まれた、重厚な本だ。
表紙には、金色の文字が書かれている。一目みたら覚えてしまうような、少し変わった本だ。

それを渡されたお母さんは、とても驚いた顔で本の表紙を眺めた。

「…こんなもの、まだ持ってたの?」

「大事なものだからな」

優しい手つきで何度も表紙を撫でている。
その手つきと表情だけで、どれほど大切なものかが伝わってくるようだった。

「色々準備もあるだろう。時間がかかってもいい。待ってるぞ」

「ええ、ありがとう」

それから15分ほど世間話をしていた2人は、「そろそろ帰らないと」と男の人が言ったのをきっかけに帰っていった。
その間ずっと、笑いあっていた。
私が見たことないような笑顔だった。


すぐに動くことが出来ずに誰もいなくなったテーブルをただただ見つめた。
こっちの世界でも時間は流れている。他のテーブルに座る人が、さっきとは変わっていた。

「広野さん」

「………」

「広野。そろそろ戻るぞ」

「あ、うん」

< 24 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop