君は世界を旅してる
現代の、学校の屋上へと帰ってきた私達。
「はあ、疲れた」
一条くんはそうぼやきながら肩を回した。ポキポキと音が鳴る。
「今何時だ?……まだ5時半か。門は空いてそうだな」
安心したような声を聴きながら、うまく言葉が出てこなかった。
久しぶりに見たお母さんの姿。約3ヶ月ぶりだ。
だけど今日見たのは、およそ半年前のお母さん。
それから、初めて見るような笑った顔。
「……広野」
一条くんがすぐ隣へと近付いてくる。
見上げると、コツンとおでこをつつかれた。
「いたっ」
「色々思うところはあるんだろうけど」
そのまま、前髪をくしゃっと触られて、私のおでこが丸見えになる。
「考えたって仕方ないだろ。まだ何もわかってないんだ」
「一条くん……」
「ほら、次はどーすんだ」
ぐしゃぐしゃになった前髪にそっと触れた。
仕草と口調は全然優しくないけれど、一条くんの優しい気持ちが心の中に流れ込んでくるような気がした。
もう散々迷惑をかけているのに、まだ付き合ってくれるんだ。そう思うと、少しだけ前向きになれた。
「あ、ありがとう」
「…俺はなにもしてない」
そんなわけない。
一条くんがいるから、こうやって知るはずのなかったことを知れてるんだから。
「とりあえず、あの本が気になる」
「男がお前の母さんに渡してたやつか?」
「そう。私あの本、絶対見たことある」