君は世界を旅してる
静かな屋上に、自分の心臓の音だけがバクバクと響いているようだった。
なんだろう、あれは。
だって確かにあのときここには、私以外誰もいなかったのだ。
とすると、あの男の子は一体どこから現れたのだろうか。
何もない空間に、まるで魔法みたいな……。
そう考えて、はっとした。
そうだ。魔法のようだった。
「いやいや、それはないか」
ありえない考えを振り払うように、ブンブンと頭を左右に振った。
どうせ、瞬間移動したように見えるマジックとか手品とか、そういうのだろう。
誰にも見られないように、この屋上でこっそり練習してたとか……うん、こんなところだろう。
うっかり私に見られちゃったから、口封じのために放課後にネタ晴らししてくれるとか?
心臓が落ち着きを取り戻してきて、同時にくすっと笑いがもれた。
あの男の子、なんて名前なんだろう。何組かな。
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。
「……やば」
急いで立ち上がり、屋上を出る…前に、慌ててしわになったスカートを整えた。
慣れた手つきで屋上の扉の鍵をかけなおし、階段を駆け下りて、教室へと急いだ。