君は世界を旅してる
「声がでかいだろ!普通に考えてでかすぎただろ!!」
「ご、ごめんって」
廊下の端、窓の外に顔を向けて、2人並んで立つ。多分、他の生徒達になるべく顔を見られないようにだろう。
「でも、話しかけてもいいってこの前……」
「注目を浴びるようなのは無しだろ!ちょっとは考えろよみんな明らかに不審がってただろ!」
「……すいませんでした」
ご立腹のようだ。
一条くんに手首を掴まれて教室から連れてこられて、開口一番怒られている。
「あー……、クラスの奴らになんか言われたらめんどくさい」
「言わせとけばいいじゃん」
「あのなあ!………はあ、もういい」
少し開けられた窓から入ってきた風が、一条くんの髪を揺らした。
長めの前髪から覗く呆れたような目に、ちょっとだけ傷付いてる私がいる。
そんな顔ばっかりじゃなくて、笑った顔をたくさん見たいなあとか、手首を掴まれた手が離れていったなあとか、そんな理由で。
「つまり、これはどういうことなの?」
「はあ?」
「あ、いや、独り言」
自分で自分の思考に首を捻りながらも、今考えるのはやめておいた。
話したいことが他にあるからだ。
「で、用件は。もうすぐ先生来る」
「うん。あの、これ」
肩に背負ったカバンをおろして、中から1冊の本を取り出した。
「!見つかったのか」
こくりと頷いて、表紙が一条くんに見えるように差し出した。
重厚感のある深い青色の上に浮かぶ、金色の文字。
それが、ざわざわと騒がしい声で色付いている学校になんだかとても不釣り合いに思えて、なにか悪いことをしているような気分になった。
一条くんはまじまじとその本を見つめてから、口元に手を当てた。
「……確かに、4月5日のあの本に見えるな」
「間違いないと思う。昨日、見つけた後にちょっと開いてみたんだけどね、」
その時、HRの時間を告げるチャイムの音が響き渡った。