君は世界を旅してる
「……あ、チャイム鳴っちゃった」
「だな。じゃあまた続きは放課後に…」
「あの、一条くんお昼休みはお弁当?」
一条くんが、ふいをつかれたように私を見つめた。
その反応にひるみそうになりながらも、出来るだけ自然な口調で続ける。
「一緒に食べたりとか、出来ないかなあと思って。えっと、早く続き話したいし…。あ!一条くんさえよければ!」
恐る恐る目を合わせると、一条くんは目を丸くして、何か言いたげに口を開けた。
一応、勇気を出して言ったのだ。
心臓がドキドキしてうるさいので、早く落ち着かせてほしい。
祈るように一条くんの顔を見る。開かれた口は、ゆっくり閉じていったかと思えばまた開いて、はっきりとした口調でこう言った。
「俺4時間目、確か体育」
「は、え、…?」
その言葉の意図するところがわからなくて首をひねると、一条くんはチラッと私を見てから教室のほうへと足を向けた。
「今日サッカーやるらしいし多分すごい汗かくと思う。……から、どっか風の通る涼しいとこで食べたいと思ってたとこ」
「え、………!」
そのまま一条くんは、4組の教室の扉に手をかけた。
それって、もしかして。
「お、屋上で待ってる!」
ガラッと開いた扉の向こうに、一条くんは消えていった。
最後に少しだけ見えた横顔、口角が上がってるように見えたのは気のせいだろうか。
珍しい表情に嬉しくなって、軽い足取りで1組の教室へと走り出す。
そういえばさっき先生に、後で歩くって言った気がする。でもゆっくり歩いてたら遅刻してまた怒られるかもしれない。
心の中で先生に謝りながら、上機嫌で走る速度を上げた。