君は世界を旅してる
4時間目、1組の授業は英語だった。
「では青木さん、この単語の意味がわかりますか?」
「え、っと」
後ろに座る千尋が先生に当てられて、慌てたような声を出した。
つられて黒板の文字を目で追うと、”ray”と書かれている。
…らい?れい?
「光?」
「はいそうですね。発音は”レイ”、名詞での意味は光、エネルギーの光線、などですが、動詞になると輝く、というような意味もありますね」
「ふー」
千尋がほっとしたように息をついた。
後ろを振り向いて「すごいね」とこっそり声をかける。すると千尋は、当然だと言うように笑ってみせた。
くすくすと笑いながら、頭の中で繰り返してみる。
れい、光、輝く…。
はっとして教科書に視線を落とすと、”a ray of hope”という例文があった。
「ねえ千尋、これの意味は?」
教科書のその部分を指差しながら千尋に尋ねると、小さな声でこう言われた。
「希望の光、って意味じゃない?」
「ふうん…」
窓からグラウンドに目をやると、体育の授業中のようで、男子がサッカーをしていた。
たいして時間をかけずに白い肌とサラサラの黒髪を見つけて、なんとなく目で追ってみる。
長袖長ズボンのジャージ姿で、コートの外で得点係をしているその姿は、とても汗をかいているようには見えなかった。
だけどすごく彼らしい気がして、なぜかほっとした気持ちになった。