君は世界を旅してる
4時間目の授業が終わり、カバンの中にお弁当とあの本が入っているのをしっかり確認して立ち上がった。
「あれ、真子どっか行くの?」
振り返ると、千尋がパンの袋を開けようとしているところだった。
千尋のまわりには、自然に人が集まってきている。こういう光景を見たときいつも、千尋の交友関係の広さを感じる。
「うん、今日はちょっと約束があって」
「へえ、誰と?」
「えっ……と」
聞かれないうちに教室を出てしまおうと思っていたのに。
何か感づいたのか、千尋がにんまりと笑う。
「あれ、まさか男子と?真子いつのまに彼氏出来たの?」
「ち、違うよ!彼氏じゃない!」
「ふーん、やっぱり男子なんだ」
「あ、いや、その……」
するどい。
見事に誘導尋問に引っかかってしまった。
これは今隠したってどうせ根掘り葉掘り聞かれることが目に見えている。それに、無理矢理隠すのは千尋に悪い気がした。
千尋にしか聞こえないように声をひそめて、こっそり耳打ちした。
「実は、一条くんと……」
「は?一条澪?」
「最近友達になったんだあ……はは」
そう言うと、千尋はとても驚いた顔をした。
「友達?あいつが?」
前に、一条くんはわざと友達を作らずに1人になっているみたいだと教えてくれたのは千尋だ。
そのときの一条くんを同じクラスで見てきた人にとっては、すごくびっくりすることなのかもしれない。
「一条くん、結構優しい人だよ。じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
不思議そうな顔の千尋に手を振って、そそくさと教室を後にした。
もし、友達になった経緯を聞かれたらどうしようか。
そんな不安がよぎったけれど、私と一条くんとの秘密は絶対に誰にも言わない。
言わない約束だというのはもちろん、2人だけの秘密を、他の誰かとは共有したくないと思ってしまった。
「よ、っと」
屋上の扉の鍵がガチャンと音を立てて開いた。
扉を開けた先には、青い空と灰色の地面がある。
もう何度も見ているはずのこの景色は、何故か見るたびに新しいものを見るような気持ちになるのだ。