君は世界を旅してる

嬉しい。
今日の卵焼き、成功してよかった。

「いいよ。はい」

「さんきゅー」

もぐもぐと卵焼きを食べてる一条くんは、珍しく少しだけ笑っていた。
その顔を見ていたくて、自然と箸が止まってしまう。
するとそんな私の視線に気付いた一条くんが、恥ずかしそうな顔をした。

「…なんだよ。たまご好きなんだよ、俺」

「あ、そうなんだ?」

右手にたまごのパンを持ちながら卵焼きを食べる姿を見ていたら、いつの間にか私も笑っていた。
最近まで知らなかった一条くんとの時間、こんなに幸せな気持ちになれるなら、もっと早く一条くんと出会っていたら良かったのに。


結局、目的の話をしたのはご飯を食べ終えてからだった。
本を一条くんに差し出すと、興味深そうに手に取って眺めていた。

「家の中にあったのか?」

「うん。ソファーの座る部分をめくったところに」

「はあ!?なんだそれ」

不思議なことだけど、よく考えたらその奇妙な隠し場所はとても納得がいく場所だった。


昔、あのソファーに座りながら見たホラー番組の内容は、ある女の子のところに、ストーカーからの気味の悪い手紙が送られてくる、というものだった。
あるときは学校の靴箱の中、あるときは家のポストの中、またあるときは玄関のドアの下……。
女の子は、買ってもらったばかりのお気に入りの1人用のソファーに座って、怖くて怖くて震えていた。
するとある日、女の子の両親が仕事で家に帰って来られない日があった。
不安になりながらも学校から帰って来て、いつも通りソファーに座ろうとして叫び声をあげた。
ソファーの上に、例のストーカーからの手紙が置いてあったのだ。
たった一行、「私はここにいます」と。

結局、いつも座っていたお気に入りのソファーの中にそのストーカーが隠れていたという気持ち悪い話だったが、私の恐怖心を煽るには充分すぎる内容だった。


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