君は世界を旅してる
「いや、ちょっとなあ、なんか」
「なに?」
「……ま、いいや。ちょっとこの本借りていいか?ゆっくり考えたい」
「いいよ。私は昨日の夜とりあえずは見てみたから」
「おう」
一条くんがちらっと腕時計を見た。もうすぐお昼休みが終わりそうな時間だ。
とりあえず、私の話は伝えることが出来た。
次はどうすればいいだろう。お母さんの秘密を探るには、何をすれば。
「広野」
「わ!な、なに?」
ぎくっとした。
まっすぐに見つめてくる視線が、まるで心を見透かされてるように感じたから。
一条くんには何も隠し事なんて出来ないんじゃないかって、そう思わされてるみたいに。
そしたら、一条くんの右手が私の左手をすくいあげた。
過去に飛んでいく時とはまったく違って、優しく、壊れ物を扱うような手つきだった。
「い、いちじょうく」
「昨日もろくに寝てないんだろ。寝不足ですって顔してる」
「あ……」
心臓が落ち着かない。触れられた手から、脈打ってるのが聞こえちゃうんじゃないかと思うほど。
「とりあえず、今日はゆっくり寝ろ。寝まくれ。この本のことは、あとは俺に任せろ。いいな」
心配そうに、本当に心配そうな顔でそう言われて、よく考えもしないまま頷いた。
そうすることしか出来なかった。それ以外認めないって顔で見られたから。
「……ありがとう」
「最後まで協力してやるから。頑張ろうな」
その言葉に、胸がいっぱいになって、もう何も言えなくなって。
一条くんの右手を、力いっぱい握り返した。