君は世界を旅してる

「おはよう真子」

「千尋。おはよ」

教室に入り、後ろの席の千尋と挨拶を交わす。
カーディガンの上にブレザーを羽織る千尋を見て、もうそんな時期なんだなあとしみじみ思った。

「ねえ真子、今日の放課後ひま?ちょっと付き合ってほしいんだけど」

「えっ、き、今日?」

ちょうど今日の放課後のことを考えていたので、ぎくっとしたように肩が上がってしまった。

「あ、なんか用事あった?」

「用事っていうか、うん、ちょっと……」

煮え切らない態度を見て、千尋が不思議そうな顔をした。
ごまかすように笑って、カバンを机の横に引っ掛けた。

「ごめんね、大事な用だった?」

そう尋ねると、千尋は少し恥ずかしそうに笑って、そわそわと手をこすりあわせている。
千尋がこんな顔をするのは珍しい。

「え、なにどうしたの」

「あは、実はね…」

声をひそめて話し始める千尋は、見たことが無いくらい女の子らしい、いわゆる乙女な顔をしていた。
可愛いなあと思いつつ、何故かこっちまで照れくさい気分になってしまう。

「会わせたい人がいる?」

「うん。最近告白されて付き合ってるんだ」

「ええ!?聞いてないよ!」

「言ってないもん。この学校の人じゃないし」

知らなかった。
後ろの席で、ちゃっかり幸せをつかんでいた友達をじとっと見る。

「すごく優しくてね、いい人なの。今日じゃなくてもいいから、今度会ってよ。真子には紹介したいからさ」

だけど幸せそうな千尋の顔を見ていたら、嬉しくてつい笑ってしまった。
千尋は交友関係が広くて友達も多くて社交的な子だけど、彼氏がいる話はそういえば聞いたことがなかった。

「うん。約束ね」

幸せをおすそ分けしてもらったような気分で、自分の席に座った。
ポケットの中の紙がカサッと音を立てた。


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