君は世界を旅してる
「あ、ねえ千尋、第3音楽室ってどこだっけ?」
「第3……?そんなのあるっけ?」
よく考えたら、その場所を私は知らなかった。
いつも授業で使うのは第1音楽室、吹奏楽部がよく使ってるのが第2音楽室だ。
聞いたことすらないような気がするのだけど、手紙の相手はよく知ってる場所なのだろうか。
「第3音楽室は、第2音楽室の隣の部屋よ」
急に背後から声がした。
落ち着いた声色、淡々とした抑揚のない声に、心臓がドキリとした。
振り返ると、眼鏡をかけた顔と目が合った。
「し、島崎さん」
立っていたのは、同じクラスの島崎ナツという名前の女の子だった。
数えるほどしか話したことがない、大人びた雰囲気の子だ。
島崎さんのほうから話しかけてくれるのは初めてかもしれない。
「え、でも第2音楽室の隣って、準備室じゃなかったっけ?」
千尋がそう言った。
確かにその通りだ。あそこは音楽準備室とプレートに書いてあるし、実際のところ、使えなくなった古い楽器や椅子などが置いてある物置みたいな場所だ。
「そうね。でも昔は音楽室として使われていたのよ。むしろ、あそこが第1音楽室だったの」
「そうなの?」
初めて聞いた。
私と千尋は驚いて、島崎さんの話を食い入るように聞いていた。
「つまり昔は、第1音楽室と第2音楽室が隣にあったの。だけど新しい校舎が建てられて、そっちに広くて大きな音楽室が作られたわ」
「そこが、今の第1音楽室?」
島崎さんは静かに頷いた。
「そういうことね。プレートが準備室に書き換えられたのは、ここ数年のことみたいよ。それまでは音楽室のままずっと使われずに放置されていたの」
「へえー…、そうなんだ」