君は世界を旅してる
「それが、3つ目の音楽室。そのうち第3音楽室と呼ばれるようになったの」
そう説明してくれた島崎さんと見ながら、私と千尋は首を傾げた。
「なんでそんなこと知ってるの?私達、聞いたこともなかったんだけど……」
「……今ではそう呼ぶのは、吹奏楽部だけかもしれないわね」
そう言って、島崎さんは背中を向けて自分の席へと戻っていった。
背筋を伸ばして座るその姿は、島崎さんの優等生ぶりを表しているみたいだった。
「そういえば島崎さんって吹奏楽部だったっけ」
千尋が納得したようにそう言った。
だけど私は、どう返したらいいかわからなかった。
チャイムが鳴って先生が来ると、みんな自分の席に座っていく。
出席を取る先生の声をぼんやりと聞きながら、頬杖をついた。
ふと、離れた席に座る島崎さんの背中を見つけた。廊下側の列の、前から2番目。私の位置からだと、その表情はよく見えない。
思い出したようにポケットの中に手を入れた。
わざと曲げてあるヘアピンと手紙を取り出して、ヘアピンだけをまたポケットに戻した。
もう一度広げてみる。何回読んでも、やっぱり第3音楽室と書いてある。
ということは、相手は吹奏楽部だろうか。
一瞬島崎さんかもしれないと思って、それはないだろうと考えを頭から振り払った。
今考えても仕方ないかと思って手紙を小さく折りたたんだとき、ふと顔をあげたら、島崎さんが無表情でこっちを見ていた。
目が合って、だけどそれはほんの一瞬。
気付いたらまた島崎さんの表情は私からは見えない。
もやもやする。すっきりしない。
「…うの。…広野!」
「は、はい!」
「お前なあ、欠席にすんぞ」
先生に怒鳴られたことで強制的に考えるのをやめた私は、すいませんと小さな声を出した。