君は世界を旅してる
放課後、音楽準備室と書かれた部屋の前に来た私は、ひとつ深呼吸をした。
いつも放課後になると楽器の音で賑やかな第2音楽室は、今日に限ってとても静かだった。どうやら、今日は吹奏楽部は休みらしい。
心の中でよしっと声を出して、扉に手をかけて一気に開けた。
そこは、私が知ってる通り、使われていない楽器、傾いて使えない椅子なんかが雑に置いてある空間だった。
ただいつもと違うのは、その空間の真ん中に立っている人がいること。
「あ………」
「来てくれてありがとう、広野真子さん」
優しそうな顔でにこっと笑うその人のことを知っていた。
吹奏楽部で数少ない男子生徒の1人で、しかも部長ということもあってちょっとした有名人だからだ。
「早川くん?」
「あ、僕の名前知ってくれてるんだ?嬉しい。4組の早川透(はやかわとおる)です」
どうやら、私を恨む女の子達のパターンじゃなかったみたいだ。
まずはそのことにほっとした。
「手紙くれたの、早川くんだったの?名前なかったからわからなかったんだけど…」
「うん、ごめんね。もし書いて来てくれなかったらショックだから書けなかったんだ」
にこにこと笑ってる早川くんは、なんだか掴みどころのない人だ。
背が高くて笑顔が人懐っこくて、一条くんとは正反対だなあとふと思った。
こんなこと本人に言ったら怒られそうだから絶対言わないけど。
「あの、なにか用事?」
おずおずと尋ねると、早川くんは意外そうな顔をした。
「あれ、わからない?こういう状況って少女漫画とかによくあるんでしょ?」
「えっと……」
「告白しようと思って、広野さんに」
え?と思ったときには、早川くんが目の前に迫ってきていた。
「好きなんだ。僕と付き合ってくれない?」