君は世界を旅してる
さらっと、「カラオケ行かない?」みたいなノリで本当に自然にそう言われた。
唖然としてしまって、すぐ近くにある早川くんの顔をまじまじと見つめた。
罰ゲームかなにかだろうかと、本気でそう疑った。
だって早川くんて、すごく女の子に人気があるから。
優しくてスタイルがよくて、女子ばっかりの吹奏楽部で部長を務め、みんなからの信頼や人望も厚いらしい。
そんな早川くんが、直接関わりを持ったことのない私なんかを、どうして。
「……あのね広野さん。そんなにじーっと見られると、ちょっと……」
「え、あっごめん!」
慌ててぱっと視線を外す。
考え込んでしまったせいで、じっと見すぎてしまった。
「……冗談だよね?」
「なにが?」
「その、私のことが好きって」
そう言うと、早川くんは心外だというように眉を寄せた。
「なんで?僕これでも本気なんだけど。って言っても、今すぐ返事がほしいわけじゃないんだよね。これをきっかけに仲良くなってもらって、だんだん僕のこと知ってもらえたらとりあえずは満足」
じゃあどうしていきなり告白なんてしてきたんだろう。普通仲良くなってからしようとか思うんじゃないの?
心の中ではそう思うものの、口に出すことは出来なかった。というか、何が起きているのかまだよくわかっていないのだ。
「だからこれからは、広野さんにいっぱい話しかけるようにするから。あ、真子ちゃんって呼んでいい?」
「は、ま、まこちゃん……?」
「ね、真子ちゃん、」
早川くんが軽く屈んで、私と同じ目線まで降りてきた。
さっきよりも距離が近くなって、また慌てて視線を外した。