君は世界を旅してる
次の日の休み時間。
「真子ちゃん」
キラキラと効果音が聞こえてきそうな笑顔で、1組の教室の入り口で手を振る人物が現れた。
思わず立ち上がった拍子に、椅子がガタガタと大きな音を立てた。
「え、あれ早川くんじゃないの?真子と仲良かったっけ?つーか名前で呼んでるし」
「ごめん千尋、説明はまた今度でもいいかな」
詳細が知りたくてうずうずしてる千尋に断りを入れて、教室の入り口へ駆け寄った。
思い違いかもしれないけど、クラスのみんなに注目されてるような気がして俯きながら。
「おはよう。今日も可愛いね」
そう言われて、ふらふらと教室の扉にもたれかかった。
なんだかすっごく力が抜けるというか、生気を奪い取られるというか。
「お、おはよう……」
「次の授業、4組自習なんだよね。時間あるから会いにきちゃった」
会いにきちゃった。てへ!じゃないよ。
思いっきり女の子に見られてるんだけど。こわい。
「あの、こういうのはちょっと困るっていうか」
「なんで?仲良くしようって言ったよね?」
「いや、あの、えっと」
強敵だ。
どう返そうかと考えあぐねていると、バタバタと足音が近付いてきた。
その足音がだんだん1組に迫ってきて、やがて教室の前で止まって……。
「広野!」
「はいっ!?」
そこそこ大きな声で名前を呼ばれた。
びっくりしながらも反射的に返事をして、何事かとまわりを見渡してみた。
息を切らしながら立っていたのは。
「……一条くん!?」
あろうことか一条くんだった。
あの一条くんが、息が切れるほど廊下を走って、そんな大声で私の名前を呼ぶなんて。
ただただ驚いて、口を開けたまま一条くんを見ていた。