君は世界を旅してる
「あ、一条」
「あ?………早川?」
早川くんが一条くんに声をかけた。それに気付いた一条くんが、私と一条くんの顔を交互に見やった。
2人は知り合いなんだろうか。だとしたら意外だ。そう考えて、2人とも4組なことを思い出した。
「一条も真子ちゃんに用事?」
相変わらずにこにこした顔で、早川くんがそう尋ねた。
「……まこ、ちゃん?」
怪訝そうな顔で早川くんを見る一条くん。それから、ちらっと横目で私のことを見た。
その目はまるで、”こいつのことか?”と言ってるようで、思わず噴き出しそうになった。
私だってまだ呼ばれ慣れていないのだ。
「それなら僕は教室に戻るよ。真子ちゃんの顔見れてとりあえずは満足したしね。じゃあ、また」
「あ、あはは……」
どこかの王子様のように爽やかに去っていく後ろ姿を見ながら、引きつった笑みを浮かべてしまった。
早川くん、どこまで本気なのかが本気でわからない。
「……あいつとどういう関係?」
「あー、うん、知り合い」
「は?」
「ごめん、私もよくわからないんだ」
正直に「告白されました」とは言いづらくて、曖昧な答えになってしまう。
そんな私の態度をどう受け取ったのか、一条くんは早川くんが去っていった廊下を見た。
「そ、それより一条くん、この前私に怒ったくせに!自分だって大声で私の名前呼んでたよ!」
話を無理矢理変えるようにそう言って笑う。
廊下を走ってくるなんて、一条くんらしくない。
「…そうだな。なんか無我夢中で」
「むがむちゅう?」