君は世界を旅してる
「とにかく早く知らせたくて。この前のアンタの気持ちがちょっとわかった」
そう言って一条くんはふっと小さく笑った。だけどそれを見れたのは一瞬で、すぐにカーディガンの袖で口元を隠してしまう。
「知らせたかった、って何を?」
「あの本のこと。色々気付いたことがある」
「えっ!ほんとに!?」
「わっ馬鹿!誰かに聞かれたらマズイだろ!」
「むぐ!」
思わず大声を出してしまって、慌てて一条くんが紺色のカーディガンの袖で私の口を塞いだ。
「…………」
「話してる内容聞かれて、俺たちが何してるか勘ぐられたらさすがに面倒だろ?」
こくこくと、必死に頷いてみせる。
一条はゆっくり口を解放してくれた。
「ということで続きはまた後でだ。広野、家どこ?」
「へ?駅方面だけど……」
「あー、…一緒だな。俺今日ちょっと放課後は無理だから帰りながら話すか」
「えっ……」
それってつまり、もしかして、一緒に帰るってことですか?
そう思った途端、ドキドキしてきた。
「ん?放課後なんか用事あったか?」
「な、ない!ないよ!」
「?…じゃあ放課後、教室まで迎えに来るから」
「うん!待ってるね!」
よし、と頷いた一条くんが、4組へと戻っていった。
もうすぐ次の授業が始まる。
一緒に帰る約束をした。一条くんと。
嬉しい。初めてだ。
知らなかった。一条くんって家の方向一緒だったんだ。
だめだ、顔がニヤける。
このまま席に戻ったら絶対千尋にからかわれる。
なんとか落ち着けようと頬に手を当ててみる。だけど手のひらも熱くなってて、何の意味もなさそうだった。