君は世界を旅してる
そして放課後、終礼が終わって帰る用意を済ませると、一条くんがやって来た。
「広野」
「は、はい!」
ズボンのポケットに手を突っ込んで立つ一条くんの元へと駆け寄る。
この時間の廊下は帰ったり部活に行ったりする生徒で溢れていてとても歩きにくい。
自然と肩と肩が触れ合う距離感で歩き出す。
「広野は部活してないんだよな。なんで?」
「うん、私の家2人暮らしだからさ。お母さんが仕事で遅くなる日が多いと、家のこと何にも出来ないしね」
「あー、なるほど」
こうして、一条くんと話すことがかなり自然になってきた。
お互いの秘密以外の話が出来るくらいには、打ち解けられているってことだ。
「真子!ばいばい〜」
「あ、ばいばい。部活頑張って」
すれ違いざまに何人かの友達が声をかけてくれる。
そのやりとりを、一条くんは何も言わずにただ眺めていた。
学校を出て、2人並んで駅の方向へと歩き始めた。
「それで、本の話って」
「だな。まずは、」
一条くんがカバンから本を取り出して、パラパラと中身をめくった。
「これはドイツ語だ」
「……ドイツ語?」
「ああ。この表紙の金色のタイトルも、中に書かれてる言葉もドイツ語だった」
どうりでまったく読めないわけだ。
本の外見も、たしかに日本のものらしくなかったので、素直に納得した。
「内容は、調べてみたら恋愛モノっぽいかな」
「えっ、一条くんこれ読んだの!?」
「無理に決まってるだろ。タイトルで調べたんだよ」
呆れたように私を見る一条くん。
だって、何故かわからないけど一条くんならこんな本も読めちゃうんじゃないかなって気がしたのだ。