君は世界を旅してる
「それから、ここ」
そう言って、本のちょうど真ん中あたりを開いた。すぐにわかるように、目印のしおりを挟んである。
「何かの跡があるだろ?」
「跡?」
一条くんが指をさすあたりをじーっと見てみる。すると、小さな輪っかの跡が見つかった。
「ほんとだ。何かが挟まってたのかな?」
「これ何に見える」
「えー、なんだろう。大きさ的には、指輪……とか」
一条くんが小さく頷いた。
「俺もそう思う。跡だけで判断すると、シンプルな指輪だ。もしかしたら結婚指輪かも」
「けっ………!?」
まさか。
驚いて足が止まってしまいそうになる。
ゆっくりしたペースで歩く私の隣を、一条くんも同じスピードで歩いてくれている。
肩からずり落ちそうになったカバンを抱え直して、一条くんを見上げた。
「でもじゃあ、その指輪は最近挟んだってこと?」
お母さんがこの本を買ったのは約2年半前。それから男の人に本を渡して、返されたのが約半年前の4月5日。
もし一条くんの言うようにこれが結婚指輪なら、その間に挟んだことになる。
結婚指輪じゃないとしても大切な指輪なら、あの男の人はやっぱりお母さんが結婚しようとしてる人で、今現在も一緒にいる人なんだろうか。
信号が赤になって立ち止まる。
考えれば考えるほど、どうして自分は何も知らされていなかったのかと悲しくなる。
前を向く私の視界を、通り過ぎる車が遮っていく。
隣にいる一条くんの顔を見ることが出来なくなって、なかなか変わらない信号を睨みつけた。