君は世界を旅してる

「俺はそうは思わない」

「へっ?」

きっぱりと私の考えを否定した顔を見上げる。
青に変わった信号を見て、一歩踏み出した一条くんに遅れないように、慌てて私も足を踏み出す。
まるで一条くんが私を引っ張ってくれているみたいだ。

「このレシートだけど」

本の最後のページを開いて、私が見つけたあのレシートを取り出した。

「これ、広野が買うところを見たときのやつじゃないんじゃないか?」

「え、どういうこと?」

「日付は読めなくなってるけど、相当古いレシートだと思う」

一条くんがそのレシートを私に差し出した。
よく意味がわからないままそれを受け取って、顔に近付けてよく見てみる。

「そう言われたらそんな気はするけど、なんでそう思うの?」

「普通、本に挟んでるだけで日付が読めなくなるか?2年半しか経ってないのに」

「それは、まあ……どうなんだろう」

店の名前は確かにこの本を買った店なので、疑う余地はないと思うのに。
首を傾げながら歩いていると、さらに一条くんは続けた。

「広野の母さんがこの本を受け取ったときのこと覚えてるか?」

「……4月5日に飛んだときのこと?もちろん」

一条くんに連れていってもらったときのことだ。
カフェのテラス席に座るお母さんの元に男の人が現れて、この本を渡していた。

「あのとき広野の母さんは、"まだこんなもの持ってたのか"って言った。すごいびっくりしたような顔で」

「よく覚えてるね…。うん、確かに言ってた」

「ということは、持ってることを驚くくらい懐かしくて、古いものだって思わないか?」

……そんなこと、気が付かなかった。
ちょっとした言い回しに隠された意味を、一条くんはいつも推理する。

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