君は世界を旅してる
すごい。
羨望の眼差しで見つめる私を、一条くんは鬱陶しそうにちらっとだけ見た。
「…その顔やめろ」
「だって、すごいよ一条くん!一条くんの話聞いてたらもう楽しくてわくわくする!」
「とにかく!この仮説はちょっと確認してみる必要があると俺は思う」
すぐに真面目な表情に戻る一条くんの隣で、うんうんと頷いてみせる。
もしこの仮説が正しければ、この本は2冊存在することになる。
思っていたよりもずっと奥が深そうだと思った。
気付けば家のすぐそばまで帰ってきていた。
何も考えずに自分の家を目指して歩いてきていたけど、一条くんの家ってどこなんだろう。
「あの、私の家もうすぐそこなんだけど…」
「ああ、わかった。じゃあ俺あっちだから」
一条くんの家はもう少し先らしい。
せっかく一緒に帰ってきたのに、話に夢中でそれどころじゃなかったなあと思って、少し名残惜しくなる。
「これは返しとく」
「あ、うん」
本を受け取って、カバンの中にしまう。
「最後にもうひとつ、面白い話してやろうか」
「え?」
一条くんが口角を上げて小さく笑った。
「指輪の跡が残ってたところ、何ページか見てみろよ。じゃあな」
そう言い残して、一条くんは帰っていった。
その後ろ姿をぼーっと眺めたあと、我にかえって慌ててもう一度本を開く。
指輪の跡があった場所は、405ページだった。