君は世界を旅してる
4.
「はじめまして、君が広野真子ちゃん?」
「はあ、はじめまして……」
「よろしく。俺のことは大樹って呼んでね」
「はあ、大樹、さん」
学校が休みの日曜日。
私は千尋との約束を果たすために、ファミレスに来ていた。
テーブルを挟んだ先には千尋ともう1人、大樹(だいき)と名乗る人が座っている。
そう、千尋の彼氏だ。
千尋は大樹さんの隣で、ニコニコと照れたような笑みを浮かべて大人しく座っている。
学校での千尋とは大違いだ。口には出せないけど。
付き合いたての初々しいオーラみたいなものが、目の前の2人から放たれている。
ハートマークがぶつかってくるような気がして、何もない空間を手でしっしっと払ったくらいだ。
「千尋から君のことはよく聞いてるよ。この前はバレーボールを頭でレシーブしたんだって?」
「なっ……、千尋!」
そんなことまで筒抜けだとは。
千尋を睨んでみても、へらっと笑ってるだけだ。多分ちっとも悪いと思ってない。
約束通り会ってみたけど、私ただの邪魔者なんじゃないの?
小さくため息をついて、この甘ったるい空気から逃れるように窓の外を見た。
そんな私を嘲笑うかのように、太陽が照りつける。
「大樹さんはね、大学生なんだけど、社長さんなの」
「ええ?」
千尋の言葉に驚いて、視線を窓から外して大樹さんを見つめた。
年上かなとは思っていた。だけどまさか社長って。
「あはは、なんか恥ずかしいな。社長だなんて大層なものじゃないよ。学生で起業してる人、最近増えてるしね」
年上の余裕というものだろうか。
模範解答のような言葉を口にしながら、コーヒーカップを口元に運ぶ。その動作も、随分と様になっている。