君は世界を旅してる
頼んだ料理が運ばれてきたので、食べることに集中することにした。
目の前でいちゃついてる2人の会話に割り込む気なんてさらさらない。
それにしても。
前に座っている大樹さんをちらっと盗み見る。
黒のジャケットに細身のジーンズ、先のとんがっている靴にクラッチバッグ。
耳には控えめなピアスが光っていて、ほんのり染まった髪は丁寧にセットされている。
大学生になると、普段見慣れている同級生の男子よりも格段に大人びて見えるのはどうしてだろうか。
千尋に限らず、女子高生が憧れを抱いて好きになるのも無理はないと思った。
「ねえ大樹さん、それ美味しい?」
「千尋もひと口食べてみる?」
「うん!」
はい、あーん。
見てるこっちが恥ずかしい。
パスタをフォークにぐるぐると巻きつけながら、なるべく前を見ないように頑張った。
千尋によると、2人の出会いはボーリングらしい。
友達と遊んでたときにたまたま隣のレーンにいたのが、同じように友達と来てた大樹さんで、会話するうちに仲良くなったんだとか。
それってナンパじゃないのって聞いたら、それでもいいって返ってきた。
まあ私としては、出会い方はどうであれ今の千尋が幸せならそれでいいのだけど。
「真子も早く彼氏作ればいいのに!」
「いや、そんな簡単なものじゃないでしょ……」
「え、真子ちゃん可愛いしすぐ出来ると思うけどな」
「でしょー?この子あんまりそういうの、興味なくって」
もう、ほっといてください。
そう思いながら、場の空気を悪くしたくなくて言い出せない。
代わりに、サラダのトマトにフォークをぐさっと刺した。