君は世界を旅してる
「えっ」
「いいか、絶対に離すなよ」
私の右手は一条くんの左手に、左手は右手にしっかりと握られて、不覚にも胸がきゅんっと鳴った。
「なっ、なん……」
「仕方なくだ。見せてやる代わりに誰にもばらすな。実際に見せてやるのは口止め料だと思え」
しっかりと目を見てそう言われた。その顔が、必死というか真剣というか、有無を言わさない威圧感みたいなものを感じて、慌てて何度も頷いた。
「よし。お前は5時間目、1組の教室で授業だったか?」
「?うん。現代文の授業受けてたけど」
すると一条くんは、静かに目を閉じた。
色の白い肌に真っ黒の髪がサラサラと流れて、まつ毛が意外と長くて、綺麗だなあなんて思って見とれてしまったとき、繋いだ手が一際強い力で握られた。
次の瞬間、急に辺りが白く眩しく光って、目を開けていられなくなった。
ぎゅっと固く閉じた瞼の向こう側、何が起こっているのかわからなかった。
感じるのはしっかりと繋いだ手の体温だけで、突然自分の体が宇宙にでも投げ出されたような浮遊感が襲い掛かってくる。
怖くなって声も出せない。
すると、ふいに足の裏が地面を捉えた感覚がした。
「目、開ければ」
ぶっきらぼうな声に促されて、恐る恐る目を開けていく。
まず視界に飛び込んできたのは一条くんと繋いだ手で、離さずにいられたんだと安心した。
ようやく完全に目を開け終えて、言葉を失った。
そこは、どこかの教室の中だった。
「………え?」
見渡すと授業中のようで、生徒が席についてノートに何か書き込んでいる。
「このとき、主人公は何を考えていたのか―――」
「っ!?」
突然背後から聞こえてきた声に驚いて、大声を上げそうになるのを寸前で堪えた。
振り返ってみるとそこには先生がいて、教科書を片手に持って黒板に文字を書きながら、授業を進めているところだった。