君は世界を旅してる
料理を食べ終えて、食後のコーヒーで一息ついていると。
「私ちょっとお手洗い」
「はいはい」
千尋がそう言って席を立って、大樹さんと2人になってしまった。
私から何を話しかけたらいいかわからなくて、黙ってコーヒーのカップを見つめていると、ニコニコ笑った大樹さんのほうから話しかけてきた。
「真子ちゃんって、本当に彼氏作る気ないの?」
「はあ、ていうか、作ろうと思って出来るものでもないような気が……」
「俺の知り合いで良ければ紹介するけど、どう?」
そんなことを言われて、大樹さんの顔をまじまじと見つめてしまった。
初対面の女子高生に普通そんなこと言うのかと耳を疑った。
「いい奴いるんだよ。俺と同い年なんだけどね、優しくてさ」
「いや、あの、せっかくですけど遠慮しておきます」
「なんで?」
さも不思議そうに言われた。
みんな、こんなに軽いノリで男女のお付き合いを始めるものなんだろうか?
「本当に今、彼氏とか作る気なくて。それどころじゃないし」
「そんなこと言わないでさ。会ってみると案外気が合うかもしれないよ?本当にいい奴なんだ、俺が保証する」
テンポよく詰め寄られて、思わず顔が引きつった。
今日初めて会う人に保証するとか言われたって、私にとっては何の安心材料にもならないのに。
「あ、じゃあさ、今度そいつも連れて4人で遊ぼうよ。俺計画立てるから!空いてる日とか、千尋に言っといてもらえれば予定合わせるし」
いい加減しつこい。
そう言ってやりたいけど、千尋の彼氏だと思ったらなかなか言い返すことが出来ない。
「あの、私本当に結構なんで。こういうのはお互いに乗り気じゃないと上手くいかないと思いますし」
大樹さんがまた何かを言いかけたとき、千尋が席に戻ってくるのが見えた。
「おまたせ!…あれ、どうかした?」
「なんでもないよ。俺もちょっとトイレ行ってくる」