君は世界を旅してる
大樹さんが席を立ったのを見計らって、声のトーンを落として千尋に問いかけた。
「ねえ、あの人のどこらへんを好きになったの?」
「え?なによいきなり」
「ナンパされたんだったよね?」
そう言うと千尋は、ふふっと嬉しそうに微笑みながらこう言った。
「一目惚れだってね、言われたの。俺のこと好きになって欲しいから、まずは友達にならない?って」
よっぽど嬉しかったんだろう。
千尋の幸せそうな顔を見て微笑ましく思う。だけどそれと同時に、不安な気持ちが押し寄せてくる。
「最初はかっこいい人だなーってだけだったんだけど、何回か2人で遊びに行って、優しいところとか良いなあって。何より、私のこと好きだって言ってくれるのが嬉しくてね、私も好きだなって思ったの」
「……そうなんだ」
戸惑う私の感情を隠すように笑いながら、砂糖とミルクを少しずつ入れたコーヒーを飲む。
確かに、大樹さんは優しそうな人だし、千尋に向ける笑顔はとても幸せそうに見える。
だけど大学生って、私達より良くも悪くも大人なのだ。
大樹さんが戻ってきてからも少しだけ3人で話したあと、また機会があれば一緒にお茶でもしようと口約束をして解散した。
仲良さそうに手を繋いで歩く2人の後ろ姿を見送りながら、千尋の幸せを願った。